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SREレポート2023 ― 我々は同じ考えを共有しているか? はい/いいえ/たぶん

2023年1月25日
翻訳: 島田 麻里子

この記事は米Catchpoint Systems社のブログ記事 SRE Report 2023: Are we Aligned? Yes. No. Maybe.の翻訳です。
Spelldataは、Catchpointの日本代理店です。
この記事は、Catchpoint Systemsの許可を得て、翻訳しています。


SREレポートには、毎年、私たちを立ち止まらせ、考えさせるような傾向やアンチパターンが存在します。
例えば、昨年は世界的に労働レベルが大きく低下していることがわかりました。
世界中で丸一年、在宅勤務をするのですから、世界の労働レベルが下がるのは当然のことですよね?

しかし、今年は大々的な業務再開が進んでいるにもかかわらず、労働レベルはさらに低下しています。
これはパラドックスであり、その精査が必要であることは間違いないでしょう。

今年のレポートでは、特定の機会や課題に関する質問に対して、役割やランク(例:個人事業主と経営幹部)による回答を詳しく調べたところ、興味深いパターンが浮かび上がってきました。
平均値の背景には、いくつかの重要な分野において、実務担当者と経営陣の間にズレが生じているというテーマがありました。

AIOpsから得られた価値

2年目となる今回は「IT運用のための人工知能(AIOps)」から得られた価値についての評価を尋ねました。
今年のデータも昨年と同様で、信頼性業務の担当者の大多数がAIOpsから得られる価値は低い、または全くないと回答しています。

しかし、回答をランク別に分析したところ、59%の幹部が「中程度または高いAIOpsの価値」を得られたと回答していることが判明しました。
一方、同じことを答えた個人事業主は20%に過ぎませんでした。

AIOpsから得られた価値

各カテゴリを左から右に読むと、全体的な傾向の偏りが全く違う方向に向かっていることが分かります。
「わからない」と答えた人も45%と少なくないので、意見の隔たりはさらに大きくなる可能性があります。

ツールのスプロール化はどの程度問題なのか?

次に、ツールのスプロール化について、どの程度の問題なのかを尋ねました。
(訳注:ツールのスプロール化……業務で使用するツールが無計画に増えていること)

業界誌で定期的にうたわれていることとは裏腹に、回答者の60%近くが、ツールの乱立は自社にとって小さな問題であるか、存在しないと回答しています。
しかし、回答をランク別に分析すると、AIOpsの質問と同じようなパターンが見られました。
個人事業主の43%が、ツールのスプロール化が中程度または深刻な問題であると回答したのに対し、経営幹部はわずか22%に留まりました。

ツールのスプロール化は会社にとって大きな問題か

これには、それなりの理由があります。
ビジネスリーダーは、貸借対照表上のツールだけを考えることが多いのですが、実際には、個人事業主は黙ってその場の結果を出すためにツールを寄せ集め、経営者の目には全く見えないツールを使っていることがあります。

また、何をもってツールのスプロールとするかという点でも、足並みを揃えることが重要です。
このレポートでは、ツールのスプロールを、単にスタック内のツールの数ではなく、スタック内のツールのコストに対する受取価値の比較として定義しています。
では、受け取った価値がコストよりも高ければ、本当にツールのスプロール化問題が語れるのでしょうか?

「非難すべきところがない」ということの認識

今年、私たちはBlameless社と提携し、組織が失敗からどのように学んでいるのかを分析しました。
ここで見いだされたのは、「公正な文化」で運営されている組織は、エリートになる確率が500%高いということです。
しかし、さらにデータを掘り下げていくと、またもや役職による認識のギャップが見えてきました。

「非難すべきところがない」という目標をいかに効率よく達成しているか

経営者や管理職が自分の組織を最高レベルで「非難するところがない」として挙げることはほとんどなく、「極めて非難するところはない」「あまり非難するところはない」と答えたのはわずか10%でした。
逆に、45%のエンジニアが、自分の組織には非難すべき傾向はないと考えています。

この二律背反をどう説明しましょう?
経営者や管理職は「非難すべきこと」がより説明責任を果たす文化を推進すると考えているのでしょうか?
それとも、これらのグループの間で、実際に「非難すべきことがない」ということの意味が異なっているのでしょうか?

製品スイートの優先傾向

経営陣と個人事業主の意見の違いは、他の場面においても明らかなものでした。
Microsoft 365よりもGoogle Workspaceを好む面があるかを尋ねたところ(調査における戦術的なエンゲージメントに関する質問のひとつ)、Google Workspaceを好むと答えたのは個人事業主だけでした。
(ここで個人事業主の調査対象の読者から笑いが起こる)

Microsoft 365とGoogle Workspaceのどちらを好むか

大量離職の影響

大量離職が士気、生産性、人材の採用・確保、イノベーションの速度、人間関係の構築など、様々な側面にどの程度の影響を与えたかを尋ねたところ、回答者のほぼ4分の1が人材の採用・確保が最も深刻な影響を受けたと答え、これは驚くには値しない結果でした。
(訳注……「大量離職」 COVID-19パンデミックをきっかけに2021年初頭に始まり、従業員が大量に自発的に仕事を辞めている米国の経済事象)
しかし、興味深いのは、その役職によって回答の傾向が異なることです。

大量離職は人材の採用や確保にどの程度ネガティブな影響を与えたか

大量離職が人材の採用や確保に与えた影響は、管理職や経営幹部がより強く感じているようです。
「None(影響はなかった)」または「Minor(影響は軽微)」にはっきり偏っているエグゼクティブとは対照的であることに注目してください。

コミュニケーションとコラボレーション

SREレポートにおいて、Stagefy社のCEO兼共同設立者であるAdriano Velasco Nunes氏は、ビジネスリーダーと経営者の間の格差についてコメントし、その責任の所在をコミュニケーション不足にあると指摘しています。

「AIOpsの価値やツールの乱立が課題かどうかなど、SREの中核となるいくつかの考え方について、個人事業主(SRE)と経営陣の見解の相違を見ると、グループ間のコミュニケーション不足だけでなく、優先順位や考え方の違いも表れています」
Adriano Velasco Nunes(Stagefy社 CEO兼共同設立者)

コミュニケーションとコラボレーションに関する質問に対する回答は、Adriano氏が何かを掴んでいることを示唆しています。
営業やマーケティングチームとのコミュニケーションやコラボレーションが著しく少なく、次いで経営陣が多くなっています。
このコミュニケーションギャップを埋めるための潜在的な障壁は、ビジネスバリューを構成するものについての共通認識を得ることが、周知のとおり困難であることです。

「信頼性導入の成功を阻む一番の課題は何か」を自由回答で尋ねたところ、「ビジネスバリューが実感しにくい」という回答が3位となりました。
では、SREが「スピードとフィード」に固執する一方で、ビジネスリーダーが「ビジネスバリューを示す」ことに焦点を当てるというギャップをどのように埋めればいいのでしょうか。

新しい、あるいはより良い会話をする時間

経営幹部と個人事業主には、コミュニケーションとコラボレーションの新しい手段を見つけ、フィードバックのループを再評価し、共通の目標と目的を定義するために連携する機会が存在します。
前出のAdriano氏は「連携を高めるためのコミュニケーションの強化が不可欠であり、チーム間のビジネス目標の設定も明確にする必要があります。もちろん、ツールに関する責任も明確に定義し、全てのツールから最大限の価値を引き出す必要もあります」と述べています。

このレポートで最も推奨されているのは、特定の能力を、新しく、より良い、あるいはより機敏な会話の焦点にすることです。

「具体的な能力は、より大きな連携とポジティブなビジネス成果への入り口であることを忘れないでください。
それらは、一方の『スピードとフィード』と他方の『ビジネスバリュー』の間のギャップを埋めるものです。」

政治、個人的な信念や偏見には注意が必要で、人の外面は自分の見解を守るようになる習性があります。
そのため、コミュニケーションとフィードバックのループを見直す際には、率直さ、誠実さ、透明性を重視した公正な文化を確保することが必要です。

肝心なことは何なのか?

このような認識のズレを、我々は大局的にどの程度気にする必要があるのでしょうか。
従業員とビジネスリーダーの足並みが乱れることは、今に始まったことではありません。
会議の最後にCEOが「我々は同じ考えを共有しているか」と尋ねると、誰もが必ず頷き、そして自分なりの解釈で「連携」を実行することが多いのです。

しかし、このような認識のギャップは、個人事業主と経営者の間に生じる深い溝を示しているのでしょうか?

「大量離職」の際、パワーバランスは社員の手にしっかりと握られていました。
しかし、世界的な景気後退の危機を前にして、多くの人にとって「大離職」は「大後悔」に姿を変えてしまったようです。
どうやら「大離職」したアメリカ人の4分の1は、その決断を後悔しており、その多くが再就職が予想以上に困難だと感じていることがわかりました。

経営陣にパワーバランスが戻ってきた今、SREの中核となる考え方のズレをどのように検証し、修正していくのでしょうか。

SREレポート史上初の試みとして、役職別の回答内容を分析したところ、示唆に富んだ結果が得られました。
もちろん、来年はさらに多くの二分化が進む可能性があり、目が離せません。

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