
複雑性の時代におけるモニタリング:CIOが見直すべき5つの前提
旧来の常識が成長を阻む
2025年3月29日
著者: Mehdi Daoudi
翻訳: 逆井 晶子
この記事は米Catchpoint Systems社のブログ記事「Monitoring in the Age of Complexity: 5 Assumptions CIOs Need to Rethink」の翻訳です。
Spelldataは、Catchpointの日本代理店です。
この記事は、Catchpoint Systemsの許可を得て、翻訳しています。
2025年、平均的な企業は150以上のSaaSアプリケーション、ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ、そしてシームレスなデジタル体験を期待する労働力を抱えています。
それにもかかわらず、ほとんどのCIOは依然としてデータセンター時代に構築されたモニタリング戦略に頼っています。
その結果は?
業界の最近の推定によると、ダウンタイムとパフォーマンスの低下により、世界のGDPに年間1.5兆ドルの損失が生じています。
問題なのはツールそのものではなく、それを使う際の考え方です。
モニタリングはもはや「稼働状況を維持するための手段」ではありません。
それは、レジリエンス、お客様の信頼、競争優位性のための戦略的な手段です。
しかし、「良いモニタリングとは何か」に関する時代遅れの前提が、組織の成長を妨げています。
CIOやVPが見直すべき5つの思い込みについて、順を追って解説します。
常に変化し続ける複雑な時代において、リーダーシップを発揮するためには、これらの前提を見直す必要があります。
神話1:モニタリングはIT運用の問題にすぎない

現実:モニタリングは、収益とお客様体験に影響を与えるビジネスにとって重要な機能です。
73%のお客様が、2度不快なオンライン体験をするとそのブランドから離れると答えている今、モニタリングはC-suite(経営幹部層)が優先すべき課題となっています。
それは単なるサーバの稼働時間の問題ではなく、収益の保護とブランド価値に関わる問題です。
物語を、リアクティブなアラートからプロアクティブなビジネス連携へと変える必要があります。
モニタリングは、顧客満足とビジネス成果に直接影響を与える戦略的な機能として位置づけるべきです。
対策
- IT指標をビジネス成果に整合させる
- 技術的なKPIにとどまらず、顧客離脱率、コンバージョン率、収益への影響などの指標を使用します。
- オブザーバビリティ(可観測性)の実践を採用する
- ITのパフォーマンスがビジネス成果にどう影響するかをリアルタイムで把握するツールを統合します。
- 部門横断的な連携を促進する
- ITチームとビジネス部門が連携し、お客様満足に直結するモニタリングを優先させます。
Gartnerは、2026年までに、オブザーバビリティを効果的に導入している組織の70%が、意思決定のスピードを高め、ITおよびビジネスプロセスの両面で競争優位を獲得すると予測しています。
これは、モニタリングをIT指標にとどめず、ビジネス成果と整合させる重要性を示しています。
神話2:データが多ければ可視性が向上する
現実:データが多すぎるとノイズが増えます。
本当に意味のある気づきは、適切なデータに焦点を当ててこそ得られます。
現代のシステムは毎日テラバイト単位のテレメトリを生成しますが、効果的なモニタリングとは「すべてを収集すること」ではなく、「重要なパターンや相関関係を見つけ出すこと」です。
AIを活用したツールは、ノイズよりもシグナルを優先することで、根本原因の特定を迅速化します。
対策
- 主要指標に注力する
-
ビジネスにとって最も重要なKPIを特定し、それに集中してモニタリングします。
- AIをノイズ除去に活用する
- 不要なデータをフィルタリングし、行動可能なインサイトを浮かび上がらせるAIツールを利用します。
- 分散トレーシングを実装する
- トレーシングを活用して、さまざまなサービスがどのように連携しているかを理解し、ボトルネックや障害の原因をより効果的に特定します。
AIを活用したモニタリングツールを導入した組織では、平均修復時間(MTTR)が短縮されるはずです。
AIは大規模なデータセット内のパターンや異常を特定するのに役立ち、問題の根本原因を特定しやすくなるからです。
神話3:内部指標がすべてを語る

現実:パフォーマンス問題の大半はファイアウォールの外部で発生しており、真の可視性にはエンドツーエンドのオブザーバビリティが必要です。
クラウドプロバイダーの99.99%の稼働SLAはラストマイルをカバーしていません。
実際、パフォーマンス問題の80%はラストマイルで発生します。
真のオブザーバビリティとは、ファイアウォールの外、ユーザーの実体験まで目を向けることです。
つまり、ユーザー体験に影響を与える外部要因まで含めてモニタリングする必要があります。
この包括的な視点により、単なる内部指標だけでは見逃される問題にも対応できます。
対策
- モニタリングの範囲を拡大する
- ページの読み込み時間、API応答時間、外部サービスのパフォーマンスなどを含めます。
- ビジネス指標とXLO(Experience Level Objectives)を統合する
- 技術的KPIを超え、離脱率、顧客満足度、コンバージョン率などのお客様中心の指標をモニタリングします。
- Internet Performance Monitoring(IPM)を使用する
- IPMを用いて、さまざまな地域からのユーザー操作をシミュレートし、潜在的な問題を事前に特定します。
体験重視のモニタリングへの転換により、組織はより情報に基づいた意思決定を行い、収益への影響に基づいて投資の優先順位を付けることができるようになります。
神話4:AIがモニタリングを自動的に解決してくれる

現実:AIは分析するデータの質に依存します。
成果を出すには、文脈が明確で、整理されたデータが不可欠です。
AIはパターンの特定や障害の予測によってモニタリングを強化できますが、データの質が悪ければその効果は大きく損なわれます。
入力データの質が低ければ、いかに優れた技術であっても、誤った結果を導いてしまいます。
Gartnerは、2026年までにAI駆動のITプロジェクトの60%が、適切なデータ準備がなければ失敗すると警告しています。
対策
- データ品質に投資する
- AIの精度を確保するには、ガバナンスフレームワークを通じて質の高い一貫したデータを整えることが不可欠です。
- シフトレフト・オブザーバビリティを採用する
- 開発サイクルの初期段階からモニタリングを統合し、早期に問題を特定します。
- コンテキストに応じてAIソリューションを最適化する
- アプリケーションやサービスの重要度に応じて、AI駆動のモニタリング戦略をカスタマイズします。
組織は、モニタリングを開発ライフサイクルの最初から組み込む「シフトレフト」アプローチを採用すべきです。
これにより、問題を早期に発見して対処でき、コストのかかるダウンタイムやパフォーマンスの低下を防ぐことができます。
神話5:ダウンタイムこそが唯一重要な指標である

現実:「遅さは新たなダウンタイム」— パフォーマンスの劣化は、障害が発生する前に信頼を損ないます。
モバイルユーザーの53%は、ページの読み込みに3秒以上かかると離脱します。
パフォーマンスの劣化は静かにユーザーの信頼を損ない、問題が顕在化する前にお客様を失うリスクをはらんでいます。
モニタリングは「稼働時間の追跡」から、「ユーザ体験の測定」へと進化する必要があります。
対策
- ユーザー体験指標をモニタリングする
-
レイテンシ、読み込み時間、取引完了率などを、従来の稼働時間指標と並行して追跡します。
これらのXLOは、モニタリングがユーザー満足度およびビジネス成果と一致することを保証します。 - 予測分析を活用する
- 過去のデータ傾向を活用して、問題がユーザーに影響を与える前に遅延を予測し、先回りして対応します。
- プロアクティブな修復プランを実装する
- トラフィックスパイクやリソースボトルネックなどの一般的なパフォーマンス問題に対して、自動応答を設定し、ユーザーへの影響を最小限に抑えます。
AIによる予測分析を活用してIT運用を改善することで、組織はリアクティブ(事後対応型)からプロアクティブ(事前対応型)なモニタリングへと移行し、ダウンタイムを削減し、システム全体の信頼性を高めることができます。
複雑性の時代に向けてモニタリングを再考する
企業がますます複雑な状況に直面する中で、モニタリングはバックオフィスの機能から、レジリエンス、お客様の信頼、そして競争上の差別化を可能にする戦略的な手段へと進化しています。
時代遅れの前提に固執していると、CIOは競合に遅れを取るだけでなく、自社のお客様の期待をも裏切ることになりかねません。
この記事で取り上げた神話は、組織がモニタリングへの取り組み方を根本的に見直す必要性を示しています。
現代のモニタリングは、単に稼働時間やデータ収集を行うものではありません。
ITパフォーマンスをビジネス上の価値と結びつけ、ユーザー体験を最優先にし、予測分析を活用して問題を未然に防ぐことが重要です。
これらの原則を受け入れることで、CIOはモニタリングを競争優位へと転換できます。
CIOのための重要なポイント
- 1. モニタリングは戦略的である
- モニタリングをIT運用の機能から、収益やお客様満足に直接結びつく経営層の優先事項へと引き上げます。
- 2. 行動可能なインサイトに注力する
- ただデータを増やすのではなく、適切なデータを収集し、AIツールを用いて意味のあるパターンを明らかにします。
- 3. 可視性を広げる
- 内部指標にとどまらず、エンドツーエンドのユーザー体験や外部要因までモニタリングします。
- 4. データ品質を優先する
- AIベースのモニタリングを十分に機能させるには、質が高く、利用状況に即したデータへの投資が不可欠です。
- 5. ユーザー体験を測定する
- XLOを採用し、お客様満足を反映する指標と技術的KPIの両方を追跡します。
自問してみてください。
あなたがモニタリングしているのは、本当に重要なことですか?
それとも、単に簡単なことだけですか?
デジタル体験が競争力の源となるこの時代、その答えこそが、あなたの組織の成長を導くカギとなります。
さらに深く知るには
- Goodbye LAN – The Internet is the Network(VMblog)をチェックして、インターネットがどのように新しい企業ネットワークとなったかを学びましょう。
- Mastering IPM: Monitor what matters from where it mattersを参照し、IPMが、適切な視点から適切な指標に注目することで、レジリエンスを高める方法を学びましょう。