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デジタルと人間

Digital Experience Monitoringとは

Digital Experience Monitoring(デジタル体験監視、DEM)とは、人や機械などのデジタルエージェントの体験を計測・監視する分野を指します。
従来、Webパフォーマンス計測・監視と云われていた分野は、ネットワークが多様化し、デジタルデバイスやデジタルサービスの発展すると共に、デジタルデータの流れを計測・監視するサービスへ発展しました。
DEMは、デジタルサプライチェーンを計測・監視するものであり、そのデータからAPM(Application Performance Management)やNPMD(Network Performance Monitoring and Diagnostic)の分析すべき箇所の情報を提供します。

DEM、APM、NPMDの関係

定義

Digital Experience Monitoringという用語は、2016年にガートナーが出した「Gartner Magic Quadrant for Application Performance Monitoring Suites」で、End-user experience monitoring (EUEM)が発展したものとして紹介されました。

その後、2019年にガートナーが出した「Market Guide for Digital Experience Monitoring」では、以下のように定義されています。

Digital experience monitoring (DEM) is a performance analysis discipline that supports the optimization of the operational experience and behavior of a digital agent, human or machine, with the application and service portfolio of enterprises.
These users, human or digital, can be a mix of external users outside the firewall and inside it.
This discipline also seeks to observe and model the behavior of users as a flow of interactions in the form of a customer journey.

デジタル・エクスペリエンス・監視(DEM)は、パフォーマンス分析の1分野で、企業におけるアプリケーションやサービスポートフォリオにおける運用体験やデジタルエージェント(人または機械)の行動の最適化を支援します。
これらのユーザは、人間またはデジタルであり、ファイアウォールの外側の外部ユーザと内部ユーザが混在している可能性があります。
この分野はまた、カスタマージャーニーの形で相互作用の流れとしてのユーザの行動を観察しモデル化しようとしています。

デジタルサプライチェーン

DEMの概念を理解するには、デジタルサプライチェーンという概念を理解する必要があります。
デジタルサプライチェーンは、マンチェスターメトロポリタン大学のトニー・ハインズ教授がつくりだした造語です。

サプライチェーン(供給連鎖)とは、製造業における製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れのことを云います。
デジタルサプライチェーンとは、サプライチェーンのデジタル版で、デジタルコンテンツやデジタルデータの生成、ネットワーク配送、組み立て、消費までの全体の一連の流れのことを云います。
Wikipediaでは、以下のように記載されています。

デジタルサプライチェーンとは、新しいメディア用語で、それが音楽や動画であれ、電子的な方法で、オリジン(コンテンツ提供者)から目的地(消費者)までのデジタルメディアの配信するプロセス全体を指す。
物理的な媒体が消費できる製品として成長するために「サプライチェーン」プロセスを経なければならないのと同じように、消費者がコンピュータやテレビで音楽や動画を楽しめる状態に至るには、デジタルメディアも様々な処理段階を経る必要があります。
デジタルサプライチェーンの主な利点の一つは、メタデータを含む実際のメディアファイルを、検索、手動による品質管理、適応や編集といった、あらゆる種類の人間の操作を可能にしながら、自動的に実行されるバックグラウンドでの全てのプロセスの面倒を見ることです。

「デジタルサプライチェーン」という用語のより広い定義は、トニー・ハインズの著書の章で述べられているが、この用語は、彼がアナログ・サプライ・チェーンと呼んでいたものから、彼の新しい概念であるデジタル・サプライ・チェーンへの転換を説明するために2001年につくられた造語です。
この貢献は、デジタル・サプライチェーンが、以前は物理的な形で供給されていた商品やサービスを流通させるように構成されていることを認識したものです。
その例としては、書籍、音楽、映画などが挙げられます。
しかし、ハインズはまた、ビジネスからビジネスへのサービスを含むように定義を拡大し、その例としてデジタルで行われているファッションデザインや製品開発を挙げています。
これまで物理的な形であったものをデジタル化することで(彼はアナログ・サプライチェーンと呼んでいた)、サプライチェーンから時間、距離、コストが取り除かれました。
ハインズは、デジタル・サプライチェーンを設計することで、情報がいかに在庫に取って代わったかについての更なる例を示しており、詳細はRoutledgeから出版された彼のSupply Chain Strategiesという本で読むことができます。

出典: Digital Supply Chain - Wikipedia

ハインズのデジタルサプライチェーンという概念は、サプライチェーンのデジタル化から始まりましたが、それは発展して、Webページのように、様々なデータソースと計算処理ノードを通過して出来上がったコンテンツ製造の流れの概念へと変わりました。
Webサイトは、1台のサーバや1つのドメインだけで構成されている事は稀で、フロントエンド側で30~100ぐらいのサーバと接続して、データを取り寄せて合体させています。
バックエンド側も、データベースサーバをはじめとして、各種APIサーバなどと連結してデータを取得しています。

更に、昨今は、フロントエンドに近いところで計算処理を行うMEC(Multi-Access EdgeComputing)が登場しました。
デスクトップやモバイル端末のEdgeComputingのプラットフォームとして、CDNが計算環境を提供し始めました。
5Gでは、ネットワークスライシングによる無線通信のアプリケーション毎の分離が可能となり、Mobile EdgeComputingがEdgeComputingを担います。

もちろん、デスクトップやモバイル端末も計算処理を行います。

サービス提供側がデータを持つのではなく、ユーザがデータを持ち、それぞれのサービス事業者に自身へのデータのアクセス権を付与するUser-centric Architectureのような概念の登場と共に、計算処理とデータの位置は多様化し、10Gbpsファイバーネットワークや5Gネットワークの普及に伴い、データ配置と計算処理は、分散化が進むでしょう。

デジタルサプライチェーン

このような複雑なデータと処理の流れを人間や機械がどのような速度で処理を進められているのか、その全体像を把握するために「デジタルサプライチェーン」の計測・監視が必要であり、DEMはそれを明らかにします。

DEMを構成する計測・監視種別

DEMは、Synthetic MonitoringとReal User Monitoringの2つから成り立ちます。

Real User Monitoring
Webパフォーマンスやモバイルアプリケーション等の実ユーザ体験の全数調査。
実ユーザのアクセスさえあればデータが取得できる。
しかし、目的変数を説明変数で完全には説明できない、観測データであり、現状把握の用途で使う。
Synthetic (Transaction) Monitoring
Webパフォーマンスやモバイルアプリケーション等を統一した環境(局所管理化)から、一定間隔で能動的にアクセスしてデータを得る計測・監視。
実ユーザのアクセスが無くてもデータが取得できる。
目的変数を説明変数で説明できる、実験データであり、因果関係を明確にする用途で使う。

実業務においては、Real User Monitoringで現状を把握し、遅延しているページ、ISP、端末などを明らかにし、その改善のために、因果関係を明確にするSynthetic Monitoringを設定して計測・監視します。
Webパフォーマンスチューニングにおいては、先にSynthetic Monitoringを利用して高速化し、その上で、Real User Monitoringを使って、まだ遅延しているページを調査するという使い方もします。

まとめ

現在のWebページというのは自社のサーバだけでつくられるわけではなく、複数の企業のサーバやサービスが絡んでつくられているので、その全体の流れを製造業のサプライチェーンと同様に監視・管理しなくてはいけないのです。