SpeedData

モバイル回線と通信

2025年7月度モバイル回線品質比較レポート

回線品質とは

スマートフォンの利用シーンは大きく変化しています。
ビデオ通話、動画配信、オンラインゲームが主要な用途となり、コロナ禍以降はリモートワークでのWeb会議にも携帯通信が活用されるようになりました。

従来、携帯通信の品質評価では上り・下りのスループット(通信速度)が重視されてきました。
スループット指標では、パケットロスが発生してもTCPの再送制御により一定の"ごまかし"が効いてきました。ところてん方式でデータを流す場合、多少の損失は帯域効率で吸収できる側面があったのです。
しかし、現在主流となっているビデオ会議やオンラインゲーム、リアルタイム通信などのアプリケーションは、高スループットよりもレイテンシ最小化が求められるタイプです。
レイテンシが悪化すると、TCPの再送が頻発してもユーザー体験の劣化が防げず、パフォーマンスのボトルネックとなります。

そのため、最新のネットワーク性能評価や最適化では、従来以上にレイテンシ・ジッター・パケットロスの3つの指標を重視する必要があります。

インターネット通信を高速道路に例えると、スループットは「車線数」に相当します。
車線が多ければ多くの車(データ)を流せますが、目的地への到着時間を決めるのは車線数だけではありません。
リアルタイム通信では、以下の3つの指標がより重要になります。

レイテンシ(遅延時間)
端末からサーバまでデータが往復する時間を指します。
高速道路で例えると「走行速度」に相当します。
この値が小さいほど、応答が速く、リアルタイム性の高い通信が可能になります。
ビデオ通話の音声遅延やオンラインゲームの反応速度に直接影響します。
ジッター
レイテンシの変動幅、つまり遅延時間のばらつきを示します。高速道路で例えると「到着時間のばらつき」に相当します。
この値が小さいほど通信が安定しており、ビデオ通話の音声品質やオンラインゲームの快適性に大きく影響します。
一定のリズムでデータが届くことが重要なリアルタイム通信では、特に重要な指標です。
パケットロス率
送信したデータのうち、途中で失われて届かなかった割合を示します。
高速道路で例えると「事故発生率」に相当します。
理想値は0%で、わずか2%のパケットロス率でも再送処理により大幅な遅延が発生し、動画の乱れや音声の途切れの原因となります。

なお、総務省の事業用電気通信設備規則の細目では、ITU-T Y.1541勧告に準拠して以下の品質基準が定められています。

本レポートでは、これらの基準を踏まえて各キャリアの回線品質を評価しています。

調査概要

調査名
2025年7月モバイル回線品質比較レポート
調査方法
フィッシャー三原則に則った定点計測・監視
計測手法
各都市に設置した計測機器から携帯通信回線を経由して、東京に設置したサーバまでのTraceroute InSessionを実行
※Traceroute InSessionとは、Catchpointが開発した新しいTCP tracerouteで、Pietrasanta Tracerouteという名前でオープンソースとして公開されています。TCPセッションを確立し、TCPの輻輳制御メカニズムとSACK(Selective ACKnowledgment)を活用してtracerouteを行う手法です。ファイアウォールによる偽のパケットロスを防止し、ロードバランサーの影響を回避して、より信頼性の高い測定を実現します。
※ジッターは、連続するping測定値のRTT(往復遅延時間)の差分の絶対値を求め、その平均値を算出しています。
計測頻度
ランダムな15分に1回
(ランダムに15分に1回とは、10:00、10:15、10:30のようなきっかりと15分ではなく、10:01、10:14、10:32のようにランダムさが加えられている)
標本の大きさ
各都市・各キャリア毎に2,976
通信種別
通信種別
都市名NTTドコモauソフトバンク楽天モバイル
札幌5G5G5G5G
新潟5G5G5G5G
東京5G5G5G5G
名古屋5G5G5G5G
大阪5G5G5G5G
福岡5G5G5G5G
計測機器
モバイルルータ(3GPP Release15対応)、計測マシンの性能、OSなど、全て統一されています。
調査期間
2025年7月1日〜31日
調査対象
計測都市: 札幌、新潟、東京、名古屋、大阪、福岡の全国6都市
計測キャリア: ドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯キャリア4社

※本調査に関する内容をご掲載の際は、必ず「Spelldata調べ」と明記してください。

サマリー

2025年7月の計測結果から、各キャリアの回線品質を総合的に評価しました。
評価は、レイテンシ(遅延時間)、ジッター(遅延のばらつき)、パケットロス率の3つの指標を基に、総務省の品質基準を参考にして行いました。

総合評価

キャリア別総合品質評価(全国6都市平均)
順位キャリア総合評価特徴
1位au★★★★★全地域で安定した低レイテンシを実現。特に新潟・名古屋で突出した品質。
2位ソフトバンク★★★★☆レイテンシとジッターのバランスが良好。東京・福岡で特に高品質。
3位楽天モバイル★★★☆☆パケットロス率が極めて低い。札幌での品質が特に良好。
4位ドコモ★★☆☆☆多くの地域でレイテンシとジッターが高め。品質改善が急務。

地域別の特徴

北日本エリア(札幌・新潟)
auとソフトバンクが高品質を維持。
新潟ではauが明確に優位。
関東・中部エリア(東京・名古屋)
ソフトバンクとauが僅差で競合。
名古屋は総合ではauが優位(ジッター最良・95パーセンタイル3指標達成)。
関西・九州エリア(大阪・福岡)
auとソフトバンクが安定した品質を提供(ジッターはソフトバンクが優位)。

総務省基準との比較

総務省基準(95パーセンタイル)の達成状況
地域 指標 キャリア
au ドコモ 楽天モバイル ソフトバンク
札幌レイテンシ×××
ジッター××
パケットロス×
新潟レイテンシ×
ジッター××
パケットロス
東京レイテンシ××
ジッター×××
パケットロス
名古屋レイテンシ×
ジッター××
パケットロス×
大阪レイテンシ××
ジッター××
パケットロス
福岡レイテンシ××
ジッター××
パケットロス

※〇:基準達成、×:基準未達成(レイテンシ:70ms以下、ジッター:20ms以下、パケットロス:0.5%以下)

注目すべき結果

ドコモの課題
札幌・名古屋ではRTT/ジッター/ロスの積分値が他社比で概ね2倍以上。
大阪・福岡でもRTTはau/ソフトバンク比で約2.5倍、ジッターはソフトバンク比で約16倍と大きい一方、楽天との比較では2倍未満の指標あり。
楽天モバイルの強み
全6都市でロス基準達成。
ロス積分値は5都市で最小(札幌5、東京30、名古屋25、大阪10、福岡10)。
新潟のみauが0で最小。
地域格差
新潟はauが3指標すべて最良(ロス0)で独走。
最大の差異自体は札幌が顕著(例:ドコモのジッター15,410はau653の約24倍)。

詳細データの見方

散布図
散布図は、縦軸にレイテンシのミリ秒、ジッター、パケットロス率を取り、横軸に日付を取って、観測値をプロットしたものです。
データの分布の概況を把握したり、分布パターンを把握するのに適しています。
累積分布関数
累積分布関数は、1か月の観測値を、小さい値から順番に並べたものです。
散布図が時間の流れで見るのに対して、累積分布関数は期間あたりの品質の分布状況を把握するのに適しています。
パフォーマンス分析では、累積分布関数で分析するのが一般的です。
積分による比較
累積分布関数の結果を数値として把握したり、比較分析したい場合には、このグラフの面積=積分として分析します。
積分値は面積を表すため無単位となり、値が小さいほど品質が良いことを示します。
平均比較ではないので、正確に差を比較できます。
なお、積分値は全体的な品質傾向を示しますが、総務省基準で用いられる95パーセンタイル値とは必ずしも比例関係にないため、積分値が小さくても基準未達成となる場合や、積分値が大きくても基準達成となる場合があります。
累積分布関数

札幌

散布図

2025年7月の札幌のモバイル回線品質の散布図
2025年7月の札幌におけるモバイル4社の通信品質の散布図

累積分布関数

2025年7月の札幌のモバイル回線品質の累積分布関数
2025年7月の札幌におけるモバイル4社の通信品質の累積分布関数

積分による比較

札幌における各キャリアの積分値(値が小さいほど品質が良い)
キャリアRound Trip Timeジッターパケットロス
au 5997 653 90
ドコモ 36741 15410 970
楽天モバイル 10985 2644 5
ソフトバンク 6073 901 95

新潟

散布図

2025年7月の新潟のモバイル回線品質の散布図
2025年7月の新潟におけるモバイル4社の通信品質の散布図

累積分布関数

2025年7月の新潟のモバイル回線品質の累積分布関数
2025年7月の新潟におけるモバイル4社の通信品質の累積分布関数

積分による比較

新潟における各キャリアの積分値(値が小さいほど品質が良い)
キャリアRound Trip Timeジッターパケットロス
au 3352 350 0
ドコモ 6351 1378 105
楽天モバイル 14950 6630 25
ソフトバンク 4158 473 95

東京

散布図

2025年7月の東京のモバイル回線品質の散布図
2025年7月の東京におけるモバイル4社の通信品質の散布図

累積分布関数

2025年7月の東京のモバイル回線品質の累積分布関数
2025年7月の東京におけるモバイル4社の通信品質の累積分布関数

積分による比較

東京における各キャリアの積分値(値が小さいほど品質が良い)
キャリアRound Trip Timeジッターパケットロス
au 4148 1013 200
ドコモ 6986 2320 120
楽天モバイル 12737 5506 30
ソフトバンク 4013 1085 95

名古屋

散布図

2025年7月の名古屋のモバイル回線品質の散布図
2025年7月の名古屋におけるモバイル4社の通信品質の散布図

累積分布関数

2025年7月の名古屋のモバイル回線品質の累積分布関数
2025年7月の名古屋におけるモバイル4社の通信品質の累積分布関数

積分による比較

名古屋における各キャリアの積分値(値が小さいほど品質が良い)
キャリアRound Trip Timeジッターパケットロス
au 4116 485 35
ドコモ 15523 6468 385
楽天モバイル 3574 1100 25
ソフトバンク 5970 1280 120

大阪

散布図

2025年7月の大阪のモバイル回線品質の散布図
2025年7月の大阪におけるモバイル4社の通信品質の散布図

累積分布関数

2025年7月の大阪のモバイル回線品質の累積分布関数
2025年7月の大阪におけるモバイル4社の通信品質の累積分布関数

積分による比較

大阪における各キャリアの積分値(値が小さいほど品質が良い)
キャリアRound Trip Timeジッターパケットロス
au 5320 1190 200
ドコモ 14944 10546 210
楽天モバイル 13059 6031 10
ソフトバンク 5851 651 95

福岡

散布図

2025年7月の福岡のモバイル回線品質の散布図
2025年7月の福岡におけるモバイル4社の通信品質の散布図

累積分布関数

2025年7月の福岡のモバイル回線品質の累積分布関数
2025年7月の福岡におけるモバイル4社の通信品質の累積分布関数

積分による比較

福岡における各キャリアの積分値(値が小さいほど品質が良い)
キャリアRound Trip Timeジッターパケットロス
au 5320 1190 200
ドコモ 14944 10546 210
楽天モバイル 13059 6031 10
ソフトバンク 5851 651 95

考察

2025年7月の6都市計測から、モバイル回線の体感品質(低レイテンシ・低ジッター・低ロス)における各社の強みと課題が明確になりました。
総合的にはauが最良、ソフトバンクが僅差の2位、楽天モバイルは低ロスが強み、ドコモはレイテンシ/ジッターに広域の課題という結果です。

結論(要約)

au
レイテンシ基準達成は6/6都市、ジッターは5/6都市、ロスは6/6都市で達成。6都市合算のRTT積分値は28,253で最小。
ソフトバンク
ジッター基準は6/6都市で達成し最も安定。RTT積分値は31,916でauより約13%大きい(=やや遅い)が、安定性が高い。
楽天モバイル
ロス基準は6/6都市で達成。RTT/ジッターは未達が多く、RTT積分値合算は68,364(auの約2.42倍)。
ドコモ
ジッター基準達成は0/6都市、レイテンシは1/6都市のみ達成。RTT積分値合算は95,489でauの約3.38倍。

定量ハイライト(都市別の代表例)

札幌
ドコモのRTT積分値36,741はau5,997の約6.1倍、ジッターは15,410でau653の約23.6倍。
楽天はロス積分値5で最小。
新潟
auが顕著に良好。
ジッター350はソフトバンク473より約26%低く、ロスは0(最小)。
東京
RTTはソフトバンク4,013がドコモ6,986より約42.6%低い。
ロス基準は全社達成だが、ジッター基準はソフトバンクのみ達成。
名古屋
RTTは楽天3,574が最小、ジッターはau485が最小。
ドコモのRTT15,523はau4,116の約3.77倍。
大阪・福岡
RTTはauとソフトバンクが拮抗。
ジッターはソフトバンクが最小(大阪でソフトバンク651はau1,190より約45%低い)。
楽天は両都市ともロスが二桁前半(10)で良好。

総務省基準(95パーセンタイル)達成状況の傾向

レイテンシ
au 6/6、ソフトバンク 5/6、楽天 1/6、ドコモ 1/6。
ジッター
ソフトバンク 6/6、au 5/6、楽天 0/6、ドコモ 0/6。
パケットロス
au 6/6、ソフトバンク 6/6、楽天 6/6、ドコモ 4/6(札幌・名古屋で未達)。

※積分値は期間中の品質を面積で表す比較指標で、95パーセンタイル達成/未達と必ずしも比例しません(本文「詳細データの見方」を参照)。

技術的示唆(経路要因とTCP実装)

遅延は基地局よりもキャリア内部ネットワーク側(バックホールやルーティング)に集中する傾向が各都市で確認できました。
下図のように基地局通過後の内部経路で遅延が顕著化するケースでは、無線側の改善だけでは体感品質は向上しません。

内部ネットワーク上の遅延の例
内部ネットワークでの遅延集中の例(基地局以降の経路で発生)

また、経路によっては TCP SACKの未活用やECN未活用を示唆する挙動が見られ、わずかなロスでも再送の増加によりRTT・ジッターが悪化する可能性があります。
ロスの少ない楽天がRTT/ジッターで伸び悩む都市がある点も、輻輳前の通知(ECN)や再送効率(SACK)を含むエンドツーエンド最適化の重要性を示しています。

改善アクション(優先度順)

内部ルーティングとバックホールの最適化
遅延の集中区間を特定し、経路迂回・帯域増強・キュー制御の見直しを実施。
TCPスタックの現代化:
SACKの有効化とECNの適切な運用(AQM併用)でロス起因の再送・遅延・ジッターを同時に抑制。
混雑時キュー管理(AQM/CoDel等)
バッファブロート抑制により、特にジッターを安定化。
都市別の弱点対策
例)札幌の高RTT/ジッター(特にドコモ)、名古屋のドコモ高ロス、東京のジッター(ソフトバンク以外)に個別対処。

弊社のSpeedData(Catchpoint)は、TCPレベルの挙動を含む Traceroute InSession により、内部ネットワーク側の遅延・再送の発生点を都市/キャリア/時間帯単位で可視化し、しきい値逸脱時にリアルタイムで通知します。基地局増設に比べ短期・低コストで効果が出やすい 内部ネットワーク最適化+TCP最適化 を継続的にご支援します。

調査データのダウンロード

本調査の生データを以下からダウンロードいただけます。
データの二次利用は自由ですが、出典として「Spelldata調べ」を明記してください。

データ形式
Microsoft Excel形式(.xlsx)
含まれるデータ
各都市・各キャリアの全各パーセンタイル測定値(RTT、ジッター、パケットロス)
ダウンロードリンク